コロナ・高校・ICT[札幌創成高校・札幌日本大学高校]
コロナ・高校・ICT
進路支援新聞編集部
コロナ禍で学校が長期休校を余儀なくされたことを機に、オンライン授業をはじめとする学校でのICT(情報通信技術)活用の必要性を説く声が大きくなっている。ただ、新聞やテレビでの取り上げ方を見ると、生徒1人1台の情報端末や家庭のネット環境の整備など、機材面の条件にばかりスポットが当たり、授業の中身やあり方にまで話が及ぶことはまだ少ない。
このままでは、たとえタブレットなどの情報端末が生徒に行き渡ったとしても、授業の内容やスタイルが端末やメディアにふさわしいものになっていないために、オンライン授業が教員にも生徒にもしっくりこない時間になってしまわないか。また、ICT活用を普段の学習指導や進路指導の全般と絡めて考えないと、ICTが授業の目先を変えるくらいにしか役に立たなかったりしないか。
いまできることから着手を
道内の私立高校の多くは、以前からICT活用を進めてきた。生徒がノートパソコンやタブレット端末を1人1台持っているか、貸し出しでいつでも使える環境が整っているようだ。長期休校の間、遠隔授業が比較的スムーズに行えた学校、教員も生徒も戸惑いが大きかった学校など、成果や課題がいろいろあっただろうが、つねづねICTを利用してきた学校・教員なら、そこで新しいノウハウも得られただろうし、今後の授業展開のヒントにも気づいたのではないか。
公立高校ではどうか。再びの感染拡大による長期休校の可能性に備えて遠隔授業の体制を整えておく必要は感じても、あくまでも非常時の備えだと思うと、コロナ流行が終息に向かい、高校も平常に戻るにつれて、ICTの導入・活用の意識が薄れていかないだろうか。文部科学省が指揮を執ってオンライン学習システムの開発に乗り出すとも伝えられているが、システムの「ガラパゴス化」を危惧する声が上がっている。実は新たなシステムを待たずとも、ICTの導入・活用を進めることは十分に可能だ。
たとえば、世界にはすでに無料で提供される授業支援ソフトがあり、多くの教育機関で高度な学習管理に使われている。オーストラリアで開発されたシステム〈Moodle(ムードル)〉もそのひとつで、道内でもいくつかの大学・専門学校が利用している。
クラウドサービスを導入する方法もある。神奈川県では県立高校が2019年度からグーグル社の学校向けクラウドサービスを導入しており、長期休校の間も生徒が自宅のパソコンやスマートフォンで授業動画を視聴したり、教材をダウンロードしたりできる環境は整っていた。県教委ではスマホ活用を前提でICTによる授業改善の計画を進めていたそうだ。
授業動画の配信でOKなのか
教科や単元によってICTやデジタル化の強みが活かせるものとそうでないものがあるだろう。それぞれの学校でICT活用の実験・試行を重ね、得られた知見を多くの学校間で共有する動きが広まるとよい。それ自体がICT活用の実践になり、ICTの本格的な導入や活用の定着に役立つはずだ。実際、授業支援ソフトについては教員による勉強会やネット上のフォーラムもあって、活用法や問題解決のノウハウが蓄積されているようだ。
パソコンなどの端末やインターネット環境がない家庭もあり、公立高では生徒の自宅学習のために教材を郵便やファックスで送らざるを得なかった学校も多かったようだ。ICT未整備の弊害として報道された例もあったが、届ける手段はともかく、紙の教材だから駄目というのは違っている。というのも、たくさんの問題にじっくり取り組ませるのなら、眼が疲れない紙の方が優れているからだ。デジタル画面をじっと見続けるような授業は、生徒にとって生理的な負担が大きく、せいぜい1日3コマが限界で、しかも毎日は続けられないのではないか。授業や課題すべてをまるまるデジタル化、オンラインにするのではなく、紙とのバランスを考えるべきだろう。また、なんでも授業動画にするのではなく、プレゼンテーションソフトで作成したスライドにした方がいいもの、音声だけの方が効果的なもの、学習内容に応じて変える工夫が大切だ。
「普段づかい」のICTに
オンライン学習の機能を使い慣れていないと、生徒にとっても、教員にとっても、なかなか思うような授業にはならないものだ。ICTを非常時のものにせず、つねづね用いる、いわば「普段づかい」にしたい。非常にスムーズに遠隔授業がしやすいのはもちろん、デジタル化・リモート化のできるもの、かえってそうした方がよいものなど、授業展開や教材づくり、成績評価にわたって、教員の仕事の棚卸の契機にもなるだろう。
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札幌創成高校と札幌日大高校、2つの私立高校を訪問し、それぞれのICT活用の一端を見せてもらった。
きめ細かく学習状況を把握――札幌創成高校

高校入試の得点がEランクかFランクだった生徒が、ぐんぐん学力を伸ばし、ここ5年ほどは毎年のように国公立大や難関私大に合格している札幌創成高校。多くの授業でタブレット端末を活用している。同校の小出靖高教諭に詳しく聞いた。
小出教諭の話では、生徒に応じて別々の解説や課題を表示できる学習アプリを用いているので、学力差や習熟度に開きがあっても、同じ教室で一緒の授業でも、まず問題ないそうだ。ICTの力を借りて教員1人で生徒全員に個別授業を行っているような感じだろうか。
「それに近いことができる。放っておいても自分で学習を進められる生徒は、どんどんタブレットで発展問題に挑戦すればいいし、その間、教員は他の生徒の指導にまわれる。タブレットを使えば、たとえば確認問題に答えられたかどうかすぐに分かるので、生徒一人ひとりの理解度を客観的に把握しながら授業を進められる。それがデータにも残せるので、他の教員と情報の共有ができる」
タブレットの機能をうまく使うと、授業で生徒のやる気や自信を引き出すこともできるという。
「正答まであと一歩の生徒に教員からヒントを送って、正答を得させてからクラスで発表させる。気分よく授業を受けられると生徒に積極性が出てくる。引っ込み思案で口頭での質問ができない生徒もタブレットを介してなら質問できる。『いい質問があった』と教員がクラス全体に示してやると、その生徒には授業に参加している実感がわいてくる」
タブレットがあると授業内容を繰り返し見たり、ドリル問題などで段階を踏まえつつ知識を定着させたりできる。材料と手順が大体決まっているので、学習習慣のなかった生徒でも自習しやすい。それを家庭学習のメニューにしてもらってもいい。
「その分、教員は授業で丁寧に指導すべきことに注力できる。授業の組み立て方を練り直して、教室での時間を濃くできる」
タブレット活用による学習効果を上げるには「生徒に持たせっぱなしではだめ」と小出教諭。生徒それぞれの学習計画の中で効果的に使われるよう配慮しなければならないという。
同校生徒は、その日何を勉強すべきか予定を記した学習マネジメントノートで自己管理している。ノートは関わる教員すべてが読んで、アドバイスやコメントをつけて生徒に戻す。提出も返却も毎日だ。タブレットでの学習状況や内容の理解度も生徒ごとに細かく把握する。
「チェックする教員も大変だが、生徒が学習習慣を定着させて学力を伸ばしていく様子が分かるとうれしくて、あまり苦労に思わない」
付け加えると、塾に通っている生徒には、希望進路や志望校、現時点での学力に応じて、塾のどの講座・講習を受けるべきかまでもアドバイスするという。生徒の学習計画と進路目標の全体を見渡したうえでのマネジメントだ。
「ただ授業だけすればよい、という教員では生徒の学力は伸ばせない。とくに生徒が学習習慣を早く身につけさせ、自分で勉強を進めていけるようになるまでは、教員には生徒の自己管理や学習計画に目配りするマネージャーとしての役割が強く求められている」
そのマネジメントを助けるツールにもなるのがタブレット端末のようなICTだ。コロナ禍のためにオンライン授業などの機能にばかり目が行きがちだが、非常時はもちろん、平常時にあっても教室でうんと活用し、学力向上や授業の質改善に役立てたい。
ICTの強みを今後の授業に――札幌日大高校

休校の長期化を予想して今年3月からオンライン授業の準備にかかったという札幌日大高校。科目ごとの授業の動画を500本以上制作し、5月の連休明けからのオンライン授業を開始した。同校の齋藤隆作教頭は「学習もさることながら、非常時に際して生徒を安心させたい思いが大きかった」と話す。
「とくに1年生は入学したばかりで、この事態に直面した。休校期間中、ICTで生徒が教員やクラスの仲間とつながれるようにし、不安解消に努めることにした。この間、オンライン授業のノウハウとコンテンツもずいぶんと蓄積されたので、今後はICTの利点や強みを通常授業に、もっと採り入れていきたい」
取材時、コロナ禍で休校が続くなか、教員は生徒のいない教室でオンライン授業を行っていた。ビデオ会議アプリ〈Zoom(ズーム)〉を用いて、自宅にいる生徒と双方向でやり取りする。学級委員の号令で生徒が一礼して授業を終える場面も見られ、パソコンのモニター上ではあっても、教室の雰囲気やクラスの一体感を大切にしている様子がうかがえた。
通常の授業だけにとどまらず、多彩多様な学びの課外プログラムを用意できるのが、私立高校の強み。なかでも札幌日大高校の各種プログラムの充実ぶりは、道内私立高校のなかでも随一と言ってもよさそうだ。どれも生徒の興味を刺激し、関心に応えながら、自然と学習意欲を高め、進路選択の判断材料にもなっている。
この日、オンラインでのホームルームで教員が生徒に参加を勧めていたのも、そんなプログラムのひとつ〈サイエンスカフェ〉だ。毎回、理系分野の著名な研究者を学校に招いて生徒がじかに話を聞くのだが、この5月はリモートで開催することになった。
「第一線で活躍する研究者ならではの話が聞けて、いつも有意義な時間だ。文理のコース選択のうえでも生徒の参考になる。今回は東京在住の研究者にZoomで参加してもらった。実はリモートだからこそ登場がかなった面もある。サイエンスカフェの展開のひとつとして、リモートも面白いものになりそうだ」
公立校でも、たとえば職業人を招いての進路講話や卒業生による大学生活の報告などをオンラインで開催してみてはどうだろうか。オンラインであれば、他の高校との共催もハードルが低くなる。共同企画にすると、ゲストの人選の幅が広がるし、質疑応答などでよその高校の生徒の反応を知ると、自校の生徒の発奮につながるかもしれない。学校間の橋渡しは当会がお役に立てるので、関心のある学校は、ぜひお声をかけてほしい。
札幌日大高校では、このほかにもオンラインで吹奏楽部の演奏を配信したり、〈ビブリオバトル(書評合戦)〉ではZoomで好きな本を紹介しあったりと、通常時の活動や行事をICTで開催した。
「休校中であっても、できるだけ学校という場を感じさせ、同じ学校の仲間として生徒がつながる機会を大事にしたかった」と齊藤教頭は話す。
授業で、課外活動で、行事でとオンラインを本格的に使っている同校。それでも教員だれもがICTの活用に長けた人ばかりではないという。必要性があり、便利さに気づくと、自然とよく使うようになり、扱いに習熟する。ある教員は「これだけたっぷりとICTを使ったのは、今回が初めて。通常の授業にも取り入れたいノウハウを身につけた」と話していた。
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