進路と科目 グループ学習で意識[札幌英藍高校]

2019年11月11日

選択科目を決めたり、文系か理系かのコースを選んだりする前に、生徒は希望の進路や進学先を十分に考えているだろうか。カリキュラムの作成や教科書の発注など学校の事情で早めに科目選択をさせなくてはならない場合、どんな方法で生徒に判断材料を与えて検討させたらよいだろうか――。

札幌英藍高校では、今年度からグループ学習とポスター発表で科目選択を控えた新入生の進路意識に働きかけている。この取り組みについて1学年主任の小日向昭教諭に詳しく聞いた。

宿泊研修中の札幌英藍高校1年生。ホテルに改善案をプレゼンテーションするクラス代表を決めている
宿泊研修中の札幌英藍高校1年生。ホテルに改善案をプレゼンテーションするクラス代表を決めている

■進路と選択科目、ミスマッチを防ぐ

札幌英藍高校は単位制だ。今年度の1年生320名の進路希望は、大学などへの進学が8割、公務員を含めた就職希望が1割。その1年生は、早くも6月に選択科目を決めなくてはならない。高校に入ったばかりで意識や知識が不十分なまま科目を選択する生徒が、これまで少なくなかった。後で自分の進路と選択科目が適合せず、生徒も教員も対応に苦慮したことがあった。「このミスマッチをなくしたい」と、小日向教諭は新しい取り組みの動機を語る。


■宿泊研修でホテルに改善策をプレゼン

グループ学習とポスター発表はひと続きの活動で、1年生はこれを2回経験したうえで科目選択の判断につなげる。

1回目のグループ学習は、4月の新入生宿泊研修で実施。教員の発案を採り入れ、レクリエーションが中心だった従来の内容を見直し、生徒にグループ学習とプレゼンテーションをさせてみることにした。

宿泊研修は3日間。初日に進路選択に関するガイダンスを聞き、2日目にグループ学習に取り組んだ。同クラスの生徒5、6名でグループをつくり、滞在するホテルを見て回る。ここで気づいた点について改善策を考え、ホテルをさらに良くする方法をポスターにまとめる。次いで8クラスそれぞれが代表グループをひとつ選ぶ。研修3日目に代表グループがホテル側にプレゼンテーションする。ホテル側は、実行可能で効果が期待できることを観点に生徒による提案を審査、優れた提案をした上位4つの代表グループが表彰された。

「しっかり役割分担をするグループがあったり、すべてをリーダーが一手に引き受けるグループがあったりといろいろだったが、入学して間もない生徒たちが打ち解けて作業していた。全体的に活気があって良い雰囲気だった」(小日向教諭)



宿泊先のホテルへプレゼンテーション。8クラス対抗の発表会を1年生全員で聞く
宿泊先のホテルへプレゼンテーション。8クラス対抗の発表会を1年生全員で聞く

進路や科目の選択に直接関係のない「ホテルの改善案」を考えさせたのは、初めてのグループ学習でも生徒が取り組みやすい具体的な課題だから。その場で見て、感じて、考えることができ、特別な知識が要らない。それでも、グループで話し合いをしてみれば、持っている知識量や世の中への関心の違いが分かる。他の生徒の発言を聞けば、生徒が自分の勉強の足りなさに気づくきっかけになる。グループ学習では、アイデアを付箋に書いて貼り、分類・展開させるKJ法を実践した。こうした発想や情報整理の方法を、生徒が普段の授業に役立てるよう期待しているという。

同校ではグループ学習を取り入れた授業が比較的多いという。これはコミュニケーション力が重視される入試への準備になるだろうし、ホテルへのプレゼンテーションのような活動の成果はe-ポートフォリオなどに載せることができるだろう。

 

■未来・職業から必要な科目を逆算


5月下旬に科目選択のガイダンスを済ませたうえで、6月に2回目のグループ学習を実施。課題は「北海道の未来に貢献する職業に就くための科目選択を提案します!」。必要な情報を探り、見通しを立てたうえで科目選択ができるように生徒に選択の具体的な手順を示すのがねらいだ。宿泊研修時と同じグループで、2コマを使いグループ学習を行った。作業の流れは次の通りだ。

①営業、医者、翻訳家、家政婦、弁護士など、あらかじめ教員が設定した20種の職業のうち1つを1グループに割り当て、その職業を通じて社会に貢献するためにはどんな力が必要なのかを考えさせる。

②そのような職業人になるために必要な経路、進路選択を考えさせる。

③その進路から必要になる科目を逆算し、2年次と3年次で選ぶべき科目の例を考えさせる。

④科目選択のモデルケースをポスターにする(提出の期限は3日後)。

作業が滞らないように予め上記それぞれの工程に所要時間を割り当て、グループのリーダーに進行を管理させた。

「少し時間が足りなかった感もあるが、2コマでこれだけの作業をこなせたのは、すでに宿泊研修でグループ学習を経験していたから。取り組みの指示に対して生徒の反応がよくなった。話し合いの進め方も手際が良くなったように思う。グループ学習のようなアクティブラーニングの効果を、個人的には懐疑的に見ていたが、グループ学習を2回やってみて、種さえまけば芽は出ることを実感した」(小日向教諭)

今回のグループ学習で得られたものは何か、それを今後どう生かしていくか――生徒は後日「振り返りシート」に回答を記入して学習を締めくくった。

前回と今回、2回のグループ学習の成果であるポスターを校内に掲示し、説明会などで来校する保護者が見られるようにしている。

宿泊研修でのグループ学習で作成したポスター。科目選択のポスターとあわせて校内の廊下に掲示している
宿泊研修でのグループ学習で作成したポスター。科目選択のポスターとあわせて校内の廊下に掲示している

■「できるだけ多くの科目の選択を」

科目選択の指導は、担任と生徒との面談でも行っている。生徒に応じて細かな指導ができるようLHRや放課後などにまとまった時間をとって面談する。

グループ学習などを通じて職業調べや志望校研究をした生徒は、自分に必要な学習分野や受験科目をある程度把握しているが、それに基づいて選択科目の数を最低限に絞りがちだ。1年生の学年団では、無理のない範囲で最大限多くの科目を選択するよう指導している。

「多様な科目を学ぶことが刺激になり、進路・進学先の選択の幅を広げてくれる。選んだ科目数だけ勉強の負担が増えると考えるのではなく、自分の可能性を探り、高めるチャンスととらえてほしい。受験に直結しなくても、大学ほか進路先での勉強に大いに役に立つはずだ」(小日向教諭)

高校生活も軌道に乗り、進路目標を意識できた1年生。学年団では歩調をそろえて、進学希望者の生徒に土曜講習の受講と模試の毎回受験を勧めることにしている。

(進路支援新聞編集部)




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